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憑かれた宮司とエトセトラ16

守りたいもの

 暖かい。

 10月の千台市は寒い。油断したらすぐに風を引いてしまう。

 ただ今は暖かい。それと同時に何というのだろう、幸せな感じというよりかは、満たされるといった感じのほうが近いかもしれない。白川さんの体に手を回しただけなのに、この満たされていく感じは一体何なのだろう。中身は白川さんではないというのに。
「どんな感じだい、宗一。」
 白川さんの声で、アズナイは私にそう聞いてきた。
「……あぁ。」
 宗一は、目の前にある白川さんの顔を見る。見つめる。今、目の前の体には、アズナイが入っている。いくら白川さんの顔を見つめても、それを白川さんに知られることも咎められることもない。
「そんなに見つめられると、いくら僕が神様だからといっても照れてしまうんだけどね。」
 静かにしていてくれ。今はそれどころではないんだ。目の前に白川さんがいるんだ。
「うーん、感慨に浸っているところ悪いけれど、僕もそろそろ我慢せずに動き出していいかな。」
 そう言うと、白川さん、いやアズナイは顔をさらに近づけてきた。
「ずっと思ってたんだ。宗一の唇は、どんな味がするんだろうって。」
 アズナイがキスをしようと、更に顔を近づける。

 ああ、奪われてしまう。

 奪われてしまう。

 …奪われていいのだろうか。

 私は、

 アズナイが乗り移った状態の白川さんとキスして、嬉しいのだろうか。

 目の前に白川さんの唇がある。

 分かる。分かってしまう。

 おそらく一度キスしてしまったら、もう戻れない。

 宗一は、反射的に自分の口を右手で覆った。結果的にアズナイは、宗一の右手の甲にキスをすることになった。その瞬間、右手が電気でも流れたかのようにしびれる。興奮が右手から全身を駆け巡って脳に届く。脳が興奮する。既におかしくなった頭が、さらにおかしくなってしまいそうだ。アズナイが手の甲から唇を離す。手の甲が、熱を持っているように感じた。
「宗一は素直じゃないなぁ、全く。まぁ抵抗されるのも嫌いじゃないよ。」
 そう言いながらアズナイは、宗一に微笑みかけた。
「俺は、この神社を、白川さんの好きな場所を、失わないように協力するだけだ。決して、自分の欲望のためじゃ、ない。」
「うんうん、分かった分かった。そういうことにしておいてあげるよ。」
 そう言ってアズナイは続ける。
「けどなぁ、接吻ができないってなると困っちゃうなぁ。」
「…えっ?」
「いやね、男色の定義って様々なんだよ。触れ合ったりするだけでも男色っていう人もいるしね。」
「あ、ああ。それで、アズナイの言う男色の定義って、何なんだ?」

「え、粘膜の接触だよ。」

 またこいつは何を言っているんだ。

「接吻がダメってことは、もう方法は一つしかない。分かるよね、宗一?」

 アズナイの言う一つ一つが、遠くの出来事のように聞こえる。

「宗一が、接吻がダメだってことは、よくわかったよ。あの状況で止められるってことは、それだけ接吻という行為が、宗一にとって大切なことなんだね。僕もそこまでされたら唇には触れないと神様に誓おうじゃないか。って神様は僕か。」
 そう言ってアズナイは、軽く笑う。
「協力するとは言ったけれど、いくらなんでも…。」
 戸惑う。いくらこの神社のためとはいえ、そんなことを考えたことは、今までなかった。
「そうは言っても、宗一の方は準備万端みたいだけど?」
 そんなことは言われなくても、自分がよく分かっている。自分の体だ。体の上に乗られた後から、ずっとそうなっているのは知っている。
「こ、これは……。」
「そろそろ素直になってもいいんじゃないかな、宗一。僕は力を取り戻す。それで神社はこれからも守られる。利嗣君は好きな場所で、過ごしていける。そして宗一は、好きな人に触れて幸福感を得られる。誰も損していないじゃないか。」
「そうだけど…、そうだけど後ろめたいと言うか…。」
「もう面倒くさいなぁ、まぁ僕に任せてよ。」
 そう言うとアズナイはもう一度、宗一の体に覆いかぶさってきた。

 熱い。

 熱くて、嬉しくて、後ろめたくて、満たされる。

「そうだ宗一、唇には触れないと誓ったけれど、それ以外はいいよね。」
「…えっ?」
 アズナイはそう言うと、宗一の首筋にキスをした。
 宗一とアズナイの、快感と背徳の夜はまだ始まったばかり。



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