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憑かれた宮司とエトセトラ17

理想の枕

 首筋が熱い。アズナイ、いや、白川さんの唇が体に触れるたび、その箇所が熱を帯びる。もし今の私をサーモグラフィカメラで見たら、キスマークのように赤い唇の形が浮き上がるだろう。
「や、やめ…。」
「ん、なにか言ったかい?」
「……。」
「良いみたいだね。嬉しいなあ、全く。」
 そう言いながら首筋から耳の方へと唇を這わせていく。
「佐倉さん、ここ、気持ちいいんですか?」
 突然アズナイが、白川さんの口調で語りかけてくる。何しろアズナイが依り代とする白川さんの口から発せされた言葉だ。当然それは白川さんの声でもある。
「おま、お前、それは、ダメだ。やめろ…。」
「ごめんよ、宗一。可愛かったから、思わずからかいたくなっちゃのさ。」
「ふざけんな、てめぇ…。」
「けど宗一が感じてくれたみたいで何よりだよ。」
 私のものは、行き場を失ったかのように開放を求めていた。

 静かな拝殿に、アズナイの甘噛の音だけが、しんしんと響いていた。これは夢だろうか。そもそもこんな状況普通ではない。私はあれだけ酔っ払っていたのだ。寝てしまって夢を見ている可能性のほうが高いのではなかろうか。
 しかしそういった宗一本人も望んでいない希望は偽りであると、宗一本人が自らの興奮をもって、体に刻み込まれていた。
 拝殿には甘噛の音と、宗一の興奮を押し殺した声が小さく響き渡っている。その声は、どこか嬉々としていて、複雑さを含んでいて、そして不満げであった。

「ア、アズナイ……。」
「ん?どうしたんだい、宗一。そんなとろんとした可愛い顔をして。」
「そ、その……。」
「可愛いよ宗一。いいよ、何でもいってごらん。」
 宗一は、どこか現実離れした今の状況に、だんだんといつもの冷静さを失いつつあった。それは宗一が、隠していたわけではないけれど、今まで自覚していなかった本当の自分の姿を表すきっかけとなった。
「さ…、さわら……か。」
「聞こえないよ?」
 この神様は、面倒くさい性格のようだ。
「だ、だから、触らせてくれないか、その体を。」
 ついに言ってしまった。思うだけなら人は自由だ。何を思おうが言葉にしなければ、周りにも、そして自分自身にも影響はない。しかし今、宗一はついに自分の思いを言葉にしてしまった。その言葉をきっかけに、宗一のブレーキは壊れていく。
「素直になったね、宗一。そういう素直なところ、僕は好きだ。」
 そう言うと、アズナイは着ていた上着を脱ぎ始めた。

 白川さんの鍛え上げられた肉体が、あらわになる。腹筋はきれいに割れていて、胸の筋肉は盛り上がっている。筋トレだけで身につけたのではない、白川さんの好きな野球をする中で自然と身についたであろう、しなやかさと力強さを兼ね備えた肉体が、宗一の目の前にあった。
「ふぅ、暑かった。やっぱり久しぶりに人の子に憑依したから慣れないね。この暑さってもんには。」
 アズナイが何を言っているのか、宗一には全く届いていなかった。宗一は感じていた。これを求めていたのだろうか。白川さんの体に反応してしまっているのだろうか。それではまるで体目的みたいじゃないか。白川さんの持つ空気感とでもいうか、人柄に惹かれていたはずなのに。
 しかし体は素直であった。宗一の戸惑いとは裏腹に、その本能が刺激されてしまっていた。宗一の手が、白川さんに伸びる。あと少しで届く。
「白川さん……。」
 アズナイは何も言わずに、嬉しそうに微笑みながら宗一が触れるのを待っていた。

 宗一は最初に、白川さんの分厚い胸筋に右手で触れた。触れた瞬間、幸せと興奮が指を伝って全身を駆け巡る。理屈ではない。体がそれを求めていたのだ。
「ああ、すごい…。」
「宗一……。」
 アズナイの声は、今の宗一には届かない。この胸筋を枕にして寝れるのならば、どんなに幸せなんだろうと、よくわからないことまで考える始末だった。アズナイは宗一の好きにさせると決めたのか、動かずにただじっと宗一を優しい目で見守っていた。



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